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執筆者の写真早大 映研

新米プロデューサー日記② 自主映画にプロデューサーは必要なのか?(2)


監督とプロデューサーの違いとは何か。


監督は「作品を作る」人間であり、プロデューサーは「作品を動かす」人間である。両者はかなり根本的に違ってくると私は定義付けたい。

ネットフリックスで配信されているオリジナルドラマ『全裸監督』で脚光を浴びた山田孝之という俳優をご存知だろうか。彼は俳優としてのみならず、実は映画プロデューサーとしても活躍していたのだ。彼がプロデューサーを務めたのは、藤井道人監督(『新聞記者』で日本アカデミー賞を受賞した若手映画監督の代表格だ)作品『デイアンドナイト』だ。どんな映画かを簡潔に説明すると、北国を舞台としたノワール的愛憎劇である。

そこで彼はどのような仕事をしていたのかというと、通常のプロデューサー業務のほかに、なんとロケ地の雪寄せをしていたのだった。これもまた、スタッフやキャストの足場を安定させ、撮影の円滑な進行をサポートするための業務であり、山田はこの雪寄せによって「作品を動か」していたのだった。


なぜこのようなエピソードを例に出したのかというと、プロデューサーの仕事は決してデスクに縛られるようなものではないことも必要になってくる、ということを言いたかったためだ。現場に出向き、撮影の進捗を見て、時にはスタッフの相談役となるのがプロデューサーの理想的な在り方である。決して、高圧的かつ権威的であってはならない。

これだけ大事な役割を担っているにもかかわらず、どうして自主映画にはプロデューサーがつかないのだろう。


その理由として、プロデューサーを頼める人がいない、あるいは監督自身プロデューサーの業務を理解していないことが挙げられると思う。

映画製作は集団制作によって進行していくもので、けっして監督ひとりのものではない。キャスト、スタッフ、その関係者が何十人も集まって構成されてゆくものだ。その作品が完成の後死蔵され封印されようと、その事実は変わらない。

そして「作品を作る」ことと「作品を動かす」ことをごちゃまぜにしてしまうと、そこに関わる人たちは追い詰められてしまうと思う。主に監督が、だ。


私が今年の春に制作した中編映画(未完成)の話をしよう。

私はその時の撮影でそれなりにお金をかけ、それなりにきちっとしたスタッフ体制で映画を制作しようと思っていた。助監督も他のスタッフも、キャストも運よくすんなりと決まっていった。決まらなかった場合スタッフの外注も考えた(が、先輩に止められた。なぜ止めた?)。ただ、プロデューサーが決まらなかった(見つからなかった)ため、見切り発車せざるを得なかった。これが本当にまずかった。

呼んだスタッフと連絡がつながらない、日程が合わない、小道具を忘れてそのシーンのニュアンスが変わってしまう、など……。これらのトラブルがすべて監督に降りかかってくるから本当にたまらない。これが永らく尾を引いて、しばらく素材を放置するに至っている(本当に申し訳ない)。


ともすればこれらのトラブルを監督が背負ってしまうと、監督のメンタルがボロボロにやられる上、肝心な「映画を作る」作業にまで深刻な支障が出てしまう。バジェットや撮影日数の多い中編映画だということもあったが、短編映画も同等のトラブルが発生することが予想される。手の込んだ撮影ほど、トラブルが絶えないということは理解していただきたい。

先ほど挙げたスタッフ・キャストとのいざこざがなぜ起きるかといえば、彼らにとっては、それが自分の映画ではないからだ。失うものはなにもないからだ。だから、監督の苦労や心身の消費なんて、知ったことではない。しかし、監督の苦労を知ってほしいなんてことは、絶対に監督は言ってはいけない。監督の孤独は監督にしかわからないし、共有できる代物ではないからだ。


 ただ、これらのトラブルが起こった最大の理由がある。それこそ、「作品を作る」ことと「作品を動かす」ことを監督(私)がごちゃまぜにしてしまったからだ。現場での対応が、準備段階での諸行動が適切だったかを推し量り、助言を与えるプロデューサーがいなかったことの明らかな失敗例が、前回のこの撮影だった。


 ひと息ついて、一杯のコーヒーを口にしながら監督の苦労を共有し、相談役を担うプロデューサーというものがいかに大切か、おわかりいただけただろうか。そして、1人の人間が「作品を作る」ことと「作品を動かす」ことを両立させることの難しさを、この例から知ることができただろう。映画制作を志す人たちは、なるべく同じ轍を踏まないように気を付けてほしい。そしてあわよくば、映画制作には必ずプロデューサーを付けてほしい。プロデューサーを見つけたならば、最初はふたりで「ぷらんたん」(本キャン前の歴史ある喫茶店)でお茶してみてはいかがだろうか。


大森開登

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