早速だが1つクイズを出したい。スナイパーの狙撃最長記録の保持者はどこの軍に所属しているだろうか?……残念、不正解だ。アメリカではないし、イギリスでもない。正解はカナダだ。カナダは英国植民地であったことから第二次世界大戦に参戦していたのだが、重要な戦場を任せてもらえていなかった。実際のところカナダ軍の訓練や装備は時代錯誤的なものであり、イギリスとしては彼らに多くを任せたくなかった。しかしながらカナダ軍は自分たちにも重要な任務を与えるよう強く要求したために、イギリスはやむなくカナダ軍を中心とした部隊をフランスのディエップに送り込んだ。ディエップの戦いの作戦目標は大したものではなく、この作戦が企図された理由も定かではないのだが、とにかくカナダ軍は自国中心の部隊で戦いに行けることに歓喜し、意気揚々と戦場に向かった。ところが残念な事に、ここでカナダ軍は莫大な損害を被り、彼らは本物の戦争というものを経験した。この教訓をもとにカナダ軍は装備の近代化と訓練の実践想定化を図り、今となっては3.5km先のターゲットを狙撃できるまでに至っている。
この話が今回の主題のカメラにうまくつながっていく。そもそもFUJIFILM X-T3をご存知だろうか。知っていても3人だろう。よもやこんなカメラが動画撮影に最も適しているとは誰も思わないはずだ。映画サークル内で私以外に使用している人もいない。確かにFUJIFILMのカメラは一眼ムービー界ではかつてのカナダ軍以下であった。しかしこの数年で彼らは指数関数的に自分たちのカメラの性能を上げてきた。その一つの到達点がこのX-T3だ。
このカメラには様々な機能が搭載されている。顔認識・瞳認識を含むAF、F-log、HLG、4:2:0 10bit内部記録、クロップファクターなしの4K30p記録、ハイフレームレート記録(Full HDで120fps)などなど、動画撮影に欠かせない機能が盛りだくさんである。それでいて一眼ムービー界のアメリカ軍たるGH5以下の値段、かつまともに機能するAF、F-logが標準装備であり、低照度特性も優っている。
ここまでの情報だけではただ動画撮影に強いカメラでしかないが、それだけではなくこのカメラにはスペック以上に他と違う個性がきちんとある。まずはフィルムシミュレーションという機能だ。他社でいうピクチャープロファイルやピクチャースタイルに相当する機能である。だがこれらは似て非なるものである。まず、それぞれのネーミングが違う。通常であれば「スタンダード」だの「ポートレート」だのという無味乾燥な名前が与えられているが、FUJIFILMは”PROVIA”や“ASTIA”や”VELVIA”等の名前を与えている。これはFUJIFILMが販売していたフィルムの色を再現した機能だ。試しにどれでもいいので選択してみてほしい。その美しさに惚れてしまうはずだ。各々に個性があって、全て美麗なのでどれがいいか選ぶだけで半日は使ってしまう。
そしてデザインだ。全体的にはレトロなデザインとなっており、一見するとフィルムカメラと見間違えてしまう。逆にその点がよい。このレトロなデザインの中に最新機能が凝縮されている、そのギャップがまた面白い。因みにX-T3にはシルバーとブラックのカラーが用意されているのだが、ブラックはただのプラスチックの塊にしか見えない。つまりブラックという選択肢はない。むしろラインナップから外してもいいくらいだ。
当然のことながらこのカメラにも欠点はある。最大の欠点はバリアングル液晶を採用していない点だ。もともとEOS 80Dを所有していたので、特にバリアングル液晶の恩恵は感じていなかったのだが、今となってははっきりと分かる。バリアングル液晶は外部機器と接続するケーブルの障害になるとか堅牢性に問題があるとか言われるのだが、そう思ったことなど一度もない上に、そもそもそんな懸念は技術者の頭の中にしか存在しないのではないだろうか。とにかくこのたった1つの欠点がX-T3を理想から遠ざけている。
ただ私はそれでも構わない。盛りだくさんの最新機能に加えて素晴らしい発色と愛すべきデザイン。これだけ揃っていれば、欠点など忘れてしまう。それほどまでに素晴らしいカメラだ。だが多くの人はLUMIX GH5を購入するのだろう。それはスナイパーを雇うときにカナダ軍出身の人間を雇おうと思わないのと同じだ。
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